欲張りな王様

神話の時代、ハザーリャ神によって確立された死というものがまだ曖昧だった頃、悠久の大河の流れる地に一人の偉大な王様がいた。
王様は「泥と人間しか取れない」と言われた土地に、生活するためのさまざまな技術や知識をもたらしましたが、その最大の功績といえば、泥を捏ね上げて粘土板を作り、それに筆写する文字を考えたことに他ならない。


かつて、神の言葉(メドゥ・ネチェル)と呼ばれる八百万の文字は、書記や神官など、一部の特権階級が独占していた。
それは知恵の女神レーヴェヤーナが他の神々争いの知識を分け与えなかったように、文字という危険な武器を、分不相応な者が用意に扱えば、周りを傷つけ、その身を滅ぼしかねないからだ。


最近じゃめっきり見なくなったが、あの頃はまだそこら中に言語が溢れていた。物質として形而下に定着されたそれは、今でいうところの【具象言語】というやつだ。
何故最近じゃ見なくなったかというと、それは現実が言語に対する免疫をつけてしまったからだ。どんな貴重なモノも皆が持てば価値は下がり、普及すれば効果は薄まる。
ハザーリャによって死に束縛された【人類】は有限の存在となり、言葉もそれを扱う者に引きずられ、有限性を持つようになった。


そのことに気づいた王様は、すべての言語を自分だけのものにしようとした。世界を形作る要素たる神の言葉。そのすべてを習合し、この宇宙の総体そのもの、つまり神になろうとしたのだ。


王様は七百九十九万九千九百九十九の言葉を手に入れたが、最後のひとつ、その一字で世界そのものを象徴する要素、即ち【】だけは手に入れることができなかった。



所詮人如きには世界をどうこうすることなどできない、というケールリング世界観的な寓意に満ちた教訓話だと思われる。

【宗教の国・日本】

現代では、毎日が神話の連続である。人生とは神話であり、今この瞬間にも町の何処かで、新しい神話が産声を上げている。


古くは八百万の神のおわす地にして日出る神州、【現代】日本。しかしアエルガ=ミクニーの悪戯かレストロオセの陰謀か、はたまた創世神アルセスの仕業なのか、大規模なフリッカー現象が発現。


その結果発生する、あまりに現実と乖離した現象一般は神話性異常と名付けられ、人々は非現実を論理を持って定義し、かつての常識と今の現実に折り合いを付け、自分達に受け入れるられる形に変えていく。


更に国民総宗教化。突如発生したどこにも起源を持たない宗教が黒死病さながら流行り、魔法少女だとか紀なる神だとか納豆の神様を崇め奉る輩が続出する。その結果、既存の宗教団体は瞬く間に廃れてった。


その果てに待っていたのは、各々の教団が信仰の元にしのぎを削る、信仰がすべてを支配するという大宗教時代の到来だった。



なんだこれ。

「其は槍を前にして混沌を切り拓き、錘を振るっては秩序を揺るがす。
歌とも泣き声とも咆哮ともつかぬものをあげ、奇妙なよろこびに身を震わせるもの」


Randall Borane

天理神[azathoth]
【理にして魔、善にして悪。その狭間に揺らぐ者】

それは紀神。失われた神。もう一柱の紀元槍の神。
祖神イルミン・聖樹イルミンともいい、古代に信仰の対象とされた名残として、イルミンの柱(イルミンスール)という木彫りの彫刻が各地に残っている。


その姿は獣身無貌の神、あるいは奇怪な樹木であるとされる。
混沌として面も目もないが、胴体【幹】からは陽を遮る翼【枝】と幾本もの肢【根】が伸びる。
夢の中で詩人や芸術家の精神に触れ、奇妙な芸術的感性を与えると伝えられ、
かの天才エレヌールの手がけた槍のタングラムにもその存在が仄めかされる。


基本的に人格神である紀神の中であって、特にその異質さが目立つ。
その為か“大神院”では存在を否定、記録から抹消されたが、その姿は生命の樹、セフィロトを体現しているとされ、後世の隠秘学では重要な意味を持った。

【紀元槍】のフラクタル構造の神格化であり、その相似な写像。【パンゲオン】が分たれる過程(天地創造)を表し、無限の形相と表象を持つとされる。


】が槍に切り拓かれる以前の無秩序でありカオス、分化する以前の状態であり可能性、つまりゆらぎエネルギーそのものであり、それが【】に切り開かれ、【】を得たもの。


どんなに多くの名前と姿を取ろうとも、どれ一つその揺らぎ続ける本質を表現することは出来ない。

など


噂では、普段は【花園】あたりで前衛的なオブジェとしてぶっ刺さっているらしい。


更に噂では、我々が今まで【紀元槍】だと思っていたものも実はこの神のことらしい。


更に更に噂では、その枝には言理の実が生り、ここから【言理の妖精】が生まれるらしい。


更に更に更に噂では、竜神信仰史書の一文にて言及される『天津大御柱之命』との関連が示唆される。

【紀元神話異聞譚】
これはあの移り気で気紛れな妖精たちの語った取り留めの無い散文を集めたものだ。

この記述が必ずしも確定されたものではなく、ゆらぎ続ける可能性の一つに過ぎないことを留意しておくように。


1 名前:言理の妖精語りて曰く、 投稿日: 0000/00/00(無) 00:00:00
「すべての始まりは光だった。光は言葉、言葉は力。つまり光はもっとも純粋な力である」


2 名前:言理の妖精語りて曰く、 投稿日: 0000/00/00(無) 00:31:24
「かつての世界はゆらぎの狭間で揺らぐ泡沫であった。それは、一瞬ともいえぬ間に膨張と収縮を繰り返す不安定な状態で存在していた。
しかし、ある時偶然にも安定した状態があり、その間にヌーナが生まれた。ヌーナはゆらぎを安定化させ、空間を押し広げて物質で満たした。
だが、この世は所詮泡の如く儚く、眠れる獣が覚醒した瞬間弾けて消える夢の産物だということを忘れてはならない」


3 名前:言理の妖精語りて曰く、 投稿日: 0000/00/00(無) 00:33:13
「イルドのあふれる土地(イルディアンサ=イギア・レル・ゼオータイオル)には、自らをゼオートと名乗る者達がいた。
彼らは人間だったが、に触れて神となった。パンゲオン解体による世界創造から終焉までの15万年間を彼らは生き続ける」


5 名前:言理の妖精語りて曰く、 投稿日: 0000/00/00(無) 01:22:52
アレとはヌーナから発生した「生きる」という意志であり、原初の時代、自らの身体を分かち、今までいた巨人とは違う、賢い小人を作った。
小人は巨人たちが滅んだ後も生き続けて人間と呼ばれ、さらにそのずっと先に紀元神群と自称するようになる」


11 名前:言理の妖精語りて曰く、 投稿日: 0000/00/00(無) 02:40:02
「一般に伝承で語られる「死ざるキュトス」なんてものは最初から存在しないのさ。あれは人間の“神の実在”なんて願望が紀元槍によって本当に実在させられたんだ。
いささか矮小化されたとはいえ、あれは本物の神様なんだよ。他の紛い物、真性不死者、つまりキュトスの血を飲んだ最初の人間(ゼオート)たちとは違う」


18 名前:言理の妖精語りて曰く、 投稿日: 0000/00/00(無) 04:15:14
「まだロディニオがあった時代の【槍】は忙しなくてね、頻繁に脱皮を繰り返していたんだ。そこに住んでいたゼオートの人々は困って、代表者として一人の少年を送り込んだんだ。
少年は【槍】の内部に仕掛けられた複雑な構造プロテクトを破って【槍】の先端に辿り着き、ついに【紀】にアクセスした。この少年を媒介して、他のゼオートの人々も【紀】と繋がった。
その際に少年は、ただ世界を安定させるだけではなく、新しく世界の創造を行ったんだ。つまり神様になろうとしたんだよ」


30 名前:言理の妖精語りて曰く、 投稿日: 0000/00/00(無) 07:01:09
「何回目かの世界更新の際、誰も命令した覚えの無いプログラムが実行されました。
それは【人類】と呼ばれるれ、瞬く間に増えて、【人類】に関する情報を書き換え、【人類】が歴史上に自然に現れたことにしました。
【人類】を不気味がった神様たちは【人類】を上書き保存しようとしましたが、瞬時にバックアップが取られ、修復されました。
その際の誤作動、フリッカー現象は世界中に影響を及ぼし、それは神様たちも例外ではありませんでした。この時キュトスは分解され、全く違った形に再構成されました。これが、キュトスの魔女です」


45 名前:言理の妖精語りて曰く、 投稿日: 0000/00/00(無) 11:26:30
「キュトスの解体、その過程は【無】(パンゲオン)の世界創造と等しく、二者は混同されているのではない、キュトスこそがパンゲオンだったのだ」

・霊妖記とは
「辺境を遍歴した旅の僧坊達が見聞したという事物を編纂した地理書。全十二巻から成る。十二人の僧は別の時代、別の土地に生まれ、全く面識が無いのにも関わらず、まるで示し合わせたかのように草案作成に取り掛かったという所が、一部の好事家や趣味人達の人気と注目を呼んでいる。実際にこの書が成立したのは秦朝末期の頃とされる。その内容と云えば、悠遠各地の動植物や鉱物、伝説上の人物や妖魅異形の類について言及されている。歴史的事実に基づく資料としての価値は殆ど無く、その評価は、あくまで当時の伝説的地理認識を表す「奇書」という扱いに留まる。」

                      民明書房刊 『奇書にみる古代中国の歴史地理研究』より


鯱。魚虎。水妖。人魚の一種とされる。
霊妖記 巻之八 赤心道人編 「その獣、かたちは魚で虎の顔に獅子のたてがみ、悍しい四肢と鋭い棘(背鰭)を持つ。
尾ひれは常に天へと向けれる。」


鯱の話・異種婚姻譚